第1回若い歯科医師のためのプレオーラルフィジシャン セミナーに参加しました
上記セミナーはR4年3月13日(日)大阪市中央区の富士通関西システムラボラトリにて行われました。当院からは、歯科医師の瀧口、坂本、穴田、山根、工藤が参加しました。
オーラルフィジシャンとは
直訳すると、「口腔内科医」です。従来の歯科医師のイメージとして「むし歯治療をしてくれる歯医者」というより、「むし歯や歯周病にならないようにお口の中の健康を管理してくれる歯科医師」のことを指します。
今回のプレオーラルフィジシャンセミナーは、主に卒業して間もない歯科医師を対象に、オーラルフィジシャンとして歯科医師を養成することを目的にしています。「真の患者利益」を実現するために、メディカルトリートメントモデルを用い、その理念や哲学を学ぶ場です。
メディカルトリートメントモデルとは
オーラルフィジシャンを実践する上で、大切な医療モデルであり哲学です。
スウェーデンで生まれた新しい歯科医療のあり方です。医療の観点を取り入れ、医療では当たり前の手順を唱えています。患者さんの訴えを把握し、必要な検査を行い、病気の原因を明らかにします。リスクを下げた上で、最小限の治療を行います。さらに治療結果が再び悪化しないよう定期的にメインテナンスするというものです。
セミナーは、川原博雄先生の「歯科医療の本質とは何か?」と題した日本の歯科医療の問題点と目指すべき歯科医療についての講演から始まりました。続いて、赤松佑紀先生による「メディカルトリートメントモデルについて」、午後からは大久保恵子先生による「女性歯科医師だからこそ、オーラルフィジシャンをめざそう」、吹田猛先生による「今、何故オーラルフィジシャンなのか」と題したオーラルフィジシャンへの道のり、最後は今林大輔先生による「予防歯科のミライ」で締めくくられました。
常日頃の歯科医療に対して、一貫して「本当にそれでいいのか?」と問いかける講演内容に、真剣に聞き入りました。講演後は、「メディカルトリートメントモデルをどのように患者さんに説明したらいいのか」、「スタッフ教育は、どうしたらいいのか」といった具体的な質問が多く寄せられ、盛況のうちに閉会となりました。
このセミナーに参加して、5人の先生方がそれぞれに予防に対して強い意志を持ちながら取組んでいらっしゃる事、メディカルトリートメントモデルという共通の治療理念の下、歯を失わない診療を実践していらっしゃる事が長期にわたる詳細なデータからよくわかりました。私自身、日頃からメディカルトリートメントモデルに基づいた治療方針を進めていますが、いかにわかりやすく伝えるか、患者さんの歯を守る事ができるかなど、まだまだ課題は多いです。セミナーの中で、患者さんにわかりやすく説明できる例えや話し方も学ぶことができましたが、それぞれの先生方のオーラルフィジシャンを目指そうとしたきっかけ、何を大切にしているかなどを教えてもらったことが勉強になりました。予防とは、「いかにメインテナンスの価値を伝え、何故このような口腔になったのかを調べ、今後むし歯や歯周病にならないためにどうすればよいかを患者さんと一緒に考える」患者さんが主役の診療ができることなのだということを再認識しました。これからも、セミナーで得た知識や教訓を診療に生かしていきたいと思います。
ここで各講師の先生からのメッセージをご紹介します。
川原博雄先生 「歯科医療の本質とは何か?」
今まできちんとまじめに歯科医院に通っていたのに、高齢になると多くの歯を失っている現実があります。全ての歯科医師は「患者のための歯科医療」を行っているはずなのですが、本来あるべき歯科医療との間に違いがあるのかもしれません。
我々は、歯科医療の目的を「生涯にわたる口腔の健康」ととらえ、今食べられればいいのではなく一生自分の歯で食べられる、できれば80歳で28歯を残す(KEEP28)を目指しています。現在では、大部分の子どもたちがカリエスフリーで20歳となり、高齢になっても多くの歯を残すことができています。
赤松佑紀先生 「メディカルトリートメントモデルについて」
どれほど、きれいに歯を削って適合の良いきれいな詰め物を装着しても、むし歯になったら、また削ってやりかえて、神経を取って、最後は抜歯。この負のサイクルを延々と繰り返していてもいいのでしょうか?歯科医療とは、患者さんに一生涯自分の歯で笑顔でおいしくお食事をしていただくためのサポートではないでしょうか?自身の技術に喜びを感じるのではなく、患者さんの歯を1本でも無傷で、削らずに一生過ごせる事、そこに喜びを感じられる歯科医療従事者になっていただきたいと切に願います。メディカルトリートメントモデルはその手段としての医療モデル・医療哲学です。
大久保恵子先生 「女性歯科医師だからこそオーラルフィジシャンをめざそう」
いかに正確にきれいに歯を治療するかということに重点を置いた教育を受けてきたけれど、対症療法でしかない事に気付き始めた頃、予防歯科に出会いました。「歯を守る」「カリエスフリーで育てる」そんな医療に携われたらどんなにかすばらしいでしょう!衝撃的な出会いから、私はオーラルフィジシャンを目指すことになります。むし歯を効率的に治す事を考える代わりに患者さん自身にカリエスフリーにするためのアプローチを考えていただく。このように考えると歯科医療は驚くほどクリエイティブな仕事に感じられます。このような長い期間をかけて患者の良い伴走者となり、ともに健康を守る医療は女性歯科医師が自らのライフステージと照らし合わせて成長しながらライフワークとして取り組むのに最適ではないでしょうか?
吹田猛先生「今、何故オーラルフィジシャンなのか」
歯科医師として、患者さんが困っていることをすぐに解決してあげたいという気持ちはあります。しかし、病気の原因を深く考えずに早く治療をすることが、患者さん本来のためになっているのでしょうか。冠や義歯が入っている口腔内は普通のことなのでしょうか。歯科医療先進国スウェーデンではカリエスフリーは普通の人です。この先、人生100年時代を迎えて、一生自分の歯で食べられることがとても大きな価値を持つようになると思います。メディカルトリートメントモデルを実践することも大切ですが、形だけやっていてもダメで、しっかりとした医療哲学を持ち力量アップを続けることが重要です。
今林大輔先生 「ミライを照らす予防歯科」
コロナ禍を受けて時代は大きく変わったように感じます。過去の成功体験が役に立たないと言われる正解のない時代。本セミナーでは歯科医療の本質を共に学び、見直すきっかけを得る事ができます。提供する歯科医療の目的を「生涯にわたる口腔の健康」に定めて、エビデンスという信頼性のある情報を元に自分軸で物を考え、社会や患者さんからの信頼を結果で得る。ミライある歯科医院作りを考える上でメディカルトリートメントモデルを根底に持ち、自分らしさのあふれる医療人が世に増えていく事を切に願っています。
以上が本セミナーの概要でした。
赤松佑紀先生と記念撮影